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福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)226号 決定

抗告人 合資会社 中山車体製作所

右代表者清算人 中山一二

主文

原決定を取り消す。

本件競落は許さない。

本件を熊本地方裁判所に差し戻す。

理由

一、抗告の趣旨及び理由は別記のとおりである。

二、抗告人が抗告理由において言わうとする意のあるところを参酌し、民訴第六七四条第二項、第六八二条第三項により職権をもつて調査するに、記録によれば、昭和三三年八月一二日午前一〇時の本件不動産の第一回競売期日の公告は、同不動産所在地たる熊本市の掲示板には、同年七月三〇日掲示せられ競売期日と公告の日との間に一四日の期間が存せず、民訴第六五九条第一項の規定に違反し、第六七二条第六号にあたることが明らかである。かかる場合競売期日は開くべきものでなく、かりに競売期日を開きその期日に競買の申込がなかつたとしても、民訴第六七〇条によつて最低競買価額を低減することはできない(大審院昭和七年四月二三日決定・判例集一一巻七〇〇頁。当裁判所昭和三三年七月一八日決定・判例集一一巻六号三九四頁。東京高裁同年九月一六日決定・判例集同七号四三六頁参照)。しかるに、原裁判所は、第一回の競売期日を開き同期日に競買申出人がなかつたため、第二回の競売期日を指定し、違法にも第一回の最低競買価額を低減した額を、第二回競売期日の最低競売価額として公告し、右第二回以下第五回までの各競売期日に競買申出人がなかつたので、法に違反し順次最低競売価額を低減の上公告し、昭和三四年一一月九日午前一〇時の第六回競売期日に、第五回のそれを違法に低減して定められ公告された最低競売価額をもつて最高価競買を申し出た芥川常義に、本件不動産の競落を許したことが記録上明らかである。この点抗告人が本件競落価額は不当に低廉で利害関係人に損害を被らせるものと主張するのは、もつともなことである。最低競売価額は利害関係人全員の合意をもつても動かし得ない売却条件であつて(民訴第六六二条参照)適法に開かれた競売期日に許すべき競売価額の申出がない場合にかぎり、これを低減しうるに過ぎない(同第六七〇条参照)のであるから、右に見たように第二回競売期日の最低競売価額その公告が違法である以上、この違法な最低競売価額を基礎とし、順次これを低減して定められた第三回以後の競売期日の最低競売価額並びにその公告は違法でありこの違法は新競売期日が繰り返えされることによつて治癒さるべきものではない(これに反する東京高裁昭和三三年八月二六日決定・判例集一一巻七号四三一頁の見解は採用し難い)。

原審の手続は民訴第六七二条、第六号、第三号、第四号にあたり、ひいて原決定は同第三、四号にあたるので、原決定を取り消し本件を原裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 鹿島重夫 判事 秦亘 山本茂)

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